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「世界中の書物よりもワインボトルの中により深い哲学がある」
あなたはこの言葉をどう捉えますか?
これはワイン造りに一大革命を起こした、「ルイ・パスツール」の言葉です。
私たちがいまワインを美味しく味わえるのはパスツールのおかげかもしれません!
そういえるのも、パスツールはアルコール発酵が酵母によるものであることを発見し、ワインなどの腐敗を防ぐ、「低温殺菌法」を開発した人物なのです!
「近代細菌学の開祖」とよばれているパスツールがなぜワイン造りの一大革命を起こしたのか詳しく一緒にみていきましょう!
パスツールは、1822年12月27日フランス東部、ジュラ地方のドールという町で皮なめし職人の3人目の子として誕生しました。
生まれた町はドールですが、約30㎞離れたアルボワという町で幼少期を過ごし、パスツールが研究を重ねた家もアルボワあります。
その後、パリの高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)へ進学し、化学者の道を歩みます。
やがて大学教授となり、とあるアルコール製造業者からワインの腐敗原因を調べてほしいという依頼を受けたことがきっかけで1866年、「低温殺菌法」を開発しました。
パスツールは伝染病と細菌の関係を明らかにするなど、細菌の研究に多大な影響を与えたことから「細菌学の父」とよばれています。
また、狂犬病などへの「ワクチン」の開発や、伝染病にかからないように前もって体内に免疫を作る「予防接種」を世に広めました。
大昔からワイン造りは行われていたのに、その原理はだれもわからないまま人々はワイン造りを行っていたのです!
酵母自体はすでに発見されていましたが、酵母と発酵の因果関係までは解明されていませんでした。
パスツールはアルコール発酵が酵母によるものだと発見。
アルコールの発酵は、酵母という微生物がいることによって行われるのです。
また、微生物の働きによって発酵の違いがあることも発見しました。
チーズなどの乳製品やビール造りなども微生物による発酵の産物であることは今では常識ですが、当時はまだ知られていませんでした。
パスツールによってその原理が広く知られるようになったのです。
当時は、微生物は自然に発生するという「自然発生説」が広く信じられていました。
パスツールはこの自然発生説を否定するために、「白鳥の首のフラスコ」を用いて実験を行います。
微生物の増殖は外部からの侵入によるものだと突き詰め、生物は自然発生しないということを証明しました。
19世紀半ばのフランスではすでにワインの輸出が活発に行われていました。
しかし、輸出国に到達するとワインの劣化が激しいという問題が。
パスツールは皇帝の命を受けてワインの劣化原因の追究をします。
劣化の原因は微生物によるものだと、「白鳥の首のフラスコ」を使って証明しました。
空気に触れたフラスコのワインには微生物が発生し、明らかに質が悪くなりましたが、外気を遮断したフラスコのワインには微生物が発生しなかったのです。
この結果から、ワインの劣化を防ぐにはワインの瓶の中の微生物を死滅させればよいと考えます。
ワインの味を落とさない程度の温度、55度~60度で湯煎し、微生物を殺菌させる方法、「低温殺菌法」を生み出しました。
ワインの風味やアルコール分を飛ばすことなく、微生物を死滅させることに成功したのです!
低温殺菌法を
フランス語では、
「Pasteurisé(パストリゼ)」
英語では、
「Pasteurization(パスチャライゼーション)」
といいます。
これらの言葉はパスツールの名をとってつけられています。
低温殺菌法は、牛乳やビールなど現代においても広く活用されている方法ですね!
「世界中の書物よりもワインボトルの中により深い哲学がある」
改めてこの言葉を噛みしめてみると、なぜパスツールがこの言葉を残したのか、ワインに対してどんな想いで向き合っていたのか、見えてくるような気がしませんか。
一本のワインボトルの中に自分の研究や経験のすべてが詰まっている、だから書物よりも深いんだ、という意味かもしれません。
または、まるで生き物のように変化するワインに対して研究の困難さを言いたかったのかもしれません。
あなたはどう感じましたか?
ワインの歴史にはルイ・パスツールという偉大な人物が大きく関わっています。
ワインだけでなく、ワクチン開発など人の命も救ってきたパスツール。
次にワインを飲むときは、パスツールに想いを馳せながら飲んでみるのもいいかもしれませんね。